「Essence」ギャラリー犬養(札幌)

【Essence】
1.本質、真髄、根本、最も重要なもの、2.精、エキス、エッセンス、香水、3. 実在、実態、霊的存在
今回の個展は、ある日私が見た夢から始まりました。
陽光射し込む海の浅瀬で、立派なアンモナイトが足を伸ばし、悠然と泳ぎながら私に問うのです。
「お前たち人間は 一体何をしているのだ?」
夢の中のアンモナイトの姿は私の目に焼き付きました。
私には時々、強烈に惹かれる生き物があります。
社会で起こる様々なトピックスを目にしては、胸のしめつけられる思いをすることが常となってきました。生きづらさを感じると、私は自然の中へ出かけます。花を愛で、緑に触れ、そこにいる生き物達をただじっと観察する。生き物達の持つ生命力はいつも素晴らしい。生き物達の姿を見て、なぜ魅かれるのか考える。私は、生き物からその力強いEssenceを取り入れて、より強く生きたいと願う。私にとって、生き物達のEssenceを取り入れることは花や果物の芳しい香りを嗅いで味わったり、山菜を食べて元気になることだけではないのです。
「サピア=ウォーフの仮説」という理論があります。ある言語を母語とする人の認識・思考はその言語によって影響されるという仮説です。私も外国語を学び外国人達と対話することで、日本語にはなかった考え方に触れて新鮮な感動を覚えることがあります。生き物達に言語があるのかは分かりませんが、生き物たちとの対話を通し、生き物達の持つ概念を知って獲得できたら良いのにと思うことがあります。生き物達の力強い生命力の源である、生殖、母性、時間感覚などの概念が現代社会に生きる私たちの生命力を回復させるのに役立ったら良いのにと思うのです。
魅力ある生き物達の姿を再現したいと思い、私はひと針ずつ縫い進めます。形をなぞることで、生き物が生まれ成長していった過程を想像します。一つの細胞が生まれ、分裂し、組織が形成され、力強い生命力を持つに至った過程に思い巡らせる。そうしていると、いつしか観察者の視点から生き物自身の視点を想像することとなり、その生き物と対話し、その特有の概念に触れたように感じることがあります。
アンモナイトが世界じゅうの海を泳ぎ回っていた太古の時、果物たちが芳しい香りを漂わせ種を守りながら樹にぶら下がり風に揺られる時、ヒトヨタケの子実体が溶けてしまう時。創作の時間はいつも、彼らが生まれ、成長し、消えていく時間と同じように自由に開く。ふと気づいたら私の手の中に作品が出来ていて、どうやって作ったのかをはっきりと思い出せないのです。
そんな過程を経て創作した私の作品が、今を生きる皆様のEssenceとなりましたら幸いです。
2023年5月31日 古川祐子






